池澤夏樹の「スティルライフ」を読んで「文章」は心にダイレクトに沁みこむことを感じた夜

 

この世界が君のために存在すると思ってはいけない。

世界は君を入れる容器ではない。

 

 

これは、池澤夏樹の小説「スティルライフ」の冒頭の一文、そして二分だ。

 

書店の棚ざしで「スティルライフ」を探し、おもむろに手に取り、

本を開いて飛び込んできたこの表現技法に、文章の個性が持つ受け手への伝わり方を考えた。

 

これだけ優しくて心に沁みこんでくるような文章を書くなんていいなぁと。

 

〇内容

ある日、佐々井という人間が僕の前に現れてから僕が感じた世界は一変した。

彼の語る宇宙論や微粒子の話に熱中する僕。

 

語り口はこんなだがとにかく文章が読み手をどこへ連れていくのか分からない。

 

そこになんと表現してよいかわからない「心地よいワクワク感」を感じずにはいられない。

 

そうだ。世界は僕を受け入れる器ではないんだ。

 

気づかされた。

 

僕、ごーせんだって、心が荒んだり病んでいるときは世界や周りの人間は僕に優しくしてくれることを常に望んでいる。

 

しかし、彼ら彼女らだって同じ心を持っているのだし、疲れたり嫌気がさすこともある。

 

同じなんだ。

 

何も自分だけがそんな境遇じゃない。

 

世界も同じだと。

 

世界の側だってそこに淡々と「存在している」だけであって、そちら側から

こちらに手を貸そうなんてするワケがない。

 

世界の微粒子たちは今日も同じ動きをする。

 

一つの微粒子を例にとってみる。

 

その微粒子は今日も6時になれば、目が覚めるし、テレビをつけてみる。

 

歯を磨き、眠気眼に布団をたたみ始める。

 

週の初めであればゴミ出しをしなければならないし、

子供がいる家庭であれば子供を起こしつけ、ご飯を与え、保育園への送り迎え。

 

微粒子レベルで世界は今日も淡々と動いている。

 

世界は忙しいのだ。

 

なんの感情も入れ込ませず、淡々とこなさなくてはならない。

 

世界のシゴトを。

 

宇宙に目を向ければ、太陽は赤く燃え続けなければならないし、地球だって回転しなくちゃいけない。

 

1年のうちに太陽を1周しなくちゃいけない。

 

それも淡々と。

 

これだけ淡々とやっているのに4年に1度、1日分遅れる。

 

「うるう年」と名付けてそれを補填しなければいけない。

 

一つ一つの機能が、それらの役割の中で動いている。

 

 

そして一つ一つは連動しあっている。

 

一つが不調を来せば、数珠つなぎに全体の機能が不調をきたす。

 

言い換えれば、一つの機能のために「全体」はあまり待っていられない。

 

無情に進まなければいけないことがほとんどだ。

 

だから、ほんのわずかな微粒子一つが不調であったとしても、

全体のために世界を「停止」してはならないのだ。

 

その不調な微粒子側からしたらとんだ悲劇かもしれないが、

メタ認知をしてみたらそういうことだ。

 

僕らは時として歯車の一つであることを強制的に受け入れねばならないかもしれない。

 

それが生きるということかもしれない。

 

「つらいこと」を前提にして生きてみると案外継続できたりする。

 

あなたが生きるための前提条件を変えてみるのも手かもしれない。

 

もしあなたが今日はどうしようもなく、つらい日でどこにも行きたくないのであればね。

 

前提がネガティブであることも時には大事なように思われる。

 

ポジティブとは、ネガティブが絶望の底の底で出会った衝撃の光のことだ。

 

これは五木寛之氏の言葉をごーせんなりにアレンジした表現だ。

 

つまり、ポジティブとは「ネガティブ」から出発しているということだ。

ネガティブはポジティブの母だ。

 

ポジティブシンキングのまやかしに屈してはいけない。

 

前向きな発言ばかりが全てではない。

 

光があれば影ができるように、表があれば裏がある。

 

誰しも心に「闇」は存在するのだ。

 

だから、その「闇」が解放できる部分を作ってやらなければいけない。

 

僕にとってのその「作業」は読書かもしれない。

 

否、間違いなく読書だ。

 

負の感情が押し寄せたときのどうしようもなく、それでいて言うに言えない難易度マックスな表現を代弁してくれるもの。

 

それが読書であり、どこかの誰かが僕が言いたい行間の言葉を、その一滴をすくって文字に起こしてくれている。

 

それに出会ったとき、僕は救われる。

 

スティルライフの文章はそんな優しさがたっぷり詰まっていて、静かだ。

 

しずかな森をゆっくり歩くように、しっとりとしている。

 

そんなしっとりとした森を「淡々と」進んでみるのもいいかもしれないよ。

 

ごーせん

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